日本政府は、2019年6月11日、パリ協定に基づく温室効果ガス低排出型の発展のための長期的な戦略として、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下、長期戦略)を閣議決定しました。これは、2019年4月~5月にかけて実施された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)」(以下、長期戦略案)の意見の募集(パブリックコメント)を経て正式に閣議決定されたもので、長期戦略案とほぼ変わらない内容で、正式に閣議決定されました。パリ協定では、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑えることを目標としています。そのため、今世紀後半までの温室効果ガス排出の実質ゼロを掲げ、その実現に向けて各国に長期戦略の策定と国連への提出を求めていました。先進7カ国(G7)では、日本とイタリアの提出が遅れていましたが、日本が議長を務める「G20大阪サミット(2019年6月28~29日)」および、それに先立って行われた「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合(2019年6月15~16日)」の前にようやく長期戦略を策定した形になります。政府は決定した長期戦略を、6月26日に国連気候変動枠組条約事務局に提出しました。

閣議決定された長期戦略では、2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減(基準年は未定)し、2070年までに排出量をゼロにすることを方針として掲げています。また、温室効果ガスを出さない水素エネルギーの技術開発などイノベーションの推進に力点を置き、「今世紀後半のできるだけ早期」に、温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指すとしています。なお、温暖化への寄与が大きい石炭火力発電および安全性の懸念がある原発については、将来的な依存低減を掲げています。

長期戦略の「基本的な考え方」では、最終到達点として、温室効果ガスの排出量をゼロにする「脱炭素社会」を掲げています。実現を目指す時期は「今世紀後半のできるだけ早期」と定め、「2050年までに温室効果ガスの80%削減」という長期目標に大胆に取り組む、と宣言しています。その上で「ビジネス主導の非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」の実現を目指す」としています。長期戦略では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを主力電源と位置付け、本格的な導入に必要なコスト低減に向けた革新的な研究開発を進めるとしています。また、水素エネルギーの活用についても、2050年までに水素の製造コストを10分の1以下にするという目標を掲げて推進する姿勢を打ち出しています。一方、市民やNGOからの批判が多い石炭火力は、「依存度を可能な限り引き下げる」としています。また、原子力は「再稼働などの原子力事業を取り巻く様々な課題に対して総合的かつ責任有る取り組みを進めることが必要」としています。

「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」のポイント

  • 温室効果ガス排出実質ゼロの「脱炭素社会」を掲げ、今世紀後半のできるだけ早期に実現
  • 2050年までに温室効果ガスを80%削減(基準年未定)
  • 再生可能エネルギーを主力電源化
  • 水素利用やCO2回収・貯蔵を推進
  • ESG投資や企業の気候変動リスク情報の開示を促進
  • 石炭火力発電や原発への依存を低減

長期戦略の詳細な内容につきましては、4月24日の以下の記事をご覧ください。

日本政府 気候変動対策の長期戦略案を公表(こちらをクリック)

なお、2019年4月25日~5月16日に実施された意見募集(パブリックコメント)には、880件のコメントが寄せられました。長期戦略の閣議決定と同時に公表されたパブリックコメントに対する政府の回答文書によると、以下のような様々な意見が寄せられたようです。

長期戦略案に対する主な意見

  • 世界をリードするものとすべき
  • 長期的なビジョンの内容は 1.5℃目標・2050 年実質排出ゼロとすべき
  • ビジョンは十分野心的であり、引き上げるべきではない(ビジョンは十分野心的であり、引き上げるべきではない
  • 注力すべき分野の数値目標を定めるべき
  • 実効性ある施策を盛り込むべき
  • 柔軟性を確保するべき
  • 世界全体で削減の取組を進めるべき
  • 再生可能エネルギーを主にすべき
  • 地熱・水力・バイオマス・海洋エネルギーを増やすべき
  • 石炭火力発電を廃止すべき
  • 石炭火力発電を活用すべき
  • 石炭火力発電を海外に輸出すべきではない
  • 石炭火力発電を海外に輸出すべき
  • 化石燃料の利用を抑えるべき
  • 化石燃料をバランスよく活用すべき
  • CCS・CCU を見直すべき
  • CCS・CCU を進めるべき
  • 水素エネルギーの活用を見直すべき
  • 水素エネルギーを活用すべき
  • 原発を廃止すべき
  • 原子力発電を活用すべき
  • 2030 年までの温室効果ガス削減目標を引き上げるべき
  • 2030 年目標のエネルギーミックスを見直すべき
  • 省エネルギー・熱利用・分散型エネルギーシステムを推進すべき

関連リンク

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(ここをクリック)

パリ協定長期成長戦略のポイント(ここをクリック)

「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定について(ここをクリック)