政府の地球温暖化対策推進本部は、2020年3月30日、パリ協定の下で実施する2030年に向けた温室効果ガス排出削減の国別貢献目標(NDC)(以下、国別目標)について取りまとめました。パリ協定の参加国は、2020年までに、すでに国連に提出している国別目標の約束草案(INDC)を更新し、国別目標を国連気候変動枠組条約事務局に提出することが求められています。今回決定した国別目標は、3月31日に国連に提出されることになります。

国別目標の再提出が必要な背景

パリ協定では、気候変動による壊滅的な被害を軽減するために、産業革命前と比較して気温の上昇を2度以内、できれば1.5度以内にすることを目指す国際的な協定です。パリ協定の参加国は、この目標を達成するために2030年に向けた温室効果ガス排出削減の国別目標を国連に提出しています。しかし、各国の国別目標がすべて達成されたとしても、地球全体の気温は2度を大きく超えて上昇してしまうと予測されています。

国連環境計画(UNEP)は、「2℃目標を達成するためには、2030年までの各国の国別目標のGHG排出削減水準を3倍に、1.5℃目標を達成するには5倍以上にしなければならない」と指摘しています。また、2019年9月に開催された国連気候行動サミットや12月に開催されたCOP25では、気候危機に対処するために、パリ協定の参加各国が、すでに約束草案として提出している国別目標を大幅に引き上げて国連に再提出することが求められました。

日本が提出した国別目標は、国際的な研究グループからはパリ協定が目指す1.5度から2度とは整合しない「著しく不十分(highly insufficient)」であると評価されていました。また、欧州各国や気候変動により国が消滅する可能性がある島しょ国からも、日本の国別目標の引き上げを再三求められていました。

国別目標の新旧比較

2015年に提出した約束草案(INDC)

2020年以降の温室効果ガス削減に向けた我が国の約束草案は、エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO2)にすることとする。

日本の約束草案

今回提出した国別目標(NDC:国が決定する貢献)

我が国は、2030 年度に 2013 年度比▲26%(2005 年度比▲25.4%)の水準にする削減目標を確実に達成することを目指す。
また、我が国は、この水準にとどまることなく、中期・長期の両面で温室効果ガスの更なる削減努力を追求していく。
これに基づき、地球温暖化対策計画の見直しに着手し、パリ協定及び関連するCMA 決定に基づき、明確性、透明性及び理解のために必要な情報を、計画の見直しの後に提出する。
加えて、NDC の削減目標の検討は、エネルギーミックスの改定と整合的に、温室効果ガス全体に関する対策・施策を積み上げ、更なる野心的な削減努力を反映した意欲的な数値を目指し、次回のパリ協定上の 5 年ごとの提出期限を待つことなく実施するとともに、提出期限に伴う NDC の提出は、直近のエネルギーミックスに整合したNDC を提出するものとする。

日本のNDC(国が決定する貢献)

今回決定された国別目標は、2030年度に2013年度比▲26.0%となっており、基本的に2015年に国連に提出した約束草案から変更はありませんでした。首相官邸レベルで目標引き上げについての会議や検討がされていなかったため、約束草案の目標を据え置いたことは、大方の予想通りでした。削減目標は変更ありませんでしたが、「この水準にとどまることなく、中期・長期の両面で温室効果ガスの更なる削減努力を追求していく。」との文言が新たに追加され、将来の対策強化の可能性が一応残された形になりました。また、「エネルギーミックスの改定と整合的に~」という文言も追加されました。2021年に決定される予定の次期エネルギー基本計画は、今年議論が開始される予定となっており、日本の温暖化対策や再生可能エネルギーに関する政策が促進されるかが注目されます。

日本の国別目標に対する評価

現時点で、国別目標を更新もしくは再提出した国は世界で4か国(マーシャル諸島、スリナム、ノルウェー、モルドヴァ)あり、日本は世界で5番目に目標提出した国となります。

世界で5番目の温室効果ガス排出国である日本が、ただでさえ不十分と言われている削減目標を強化せず再提出したことに対して、「削減目標を強化しなくてもよい」というメッセージを世界に先駆けて出すこととなり、国際社会が時間をかけて醸成してきた削減目標の強化の流れをそぎ、時代に逆行することになると、EU各国や環境NGOなどから大きな批判を浴びています。また、国別目標の決定プロセスについても、市民が参加した国民的な議論をせずに、一部の政府関係者による不透明で非民主的に決められたことに対しての批判もあります。

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界的に社会や経済活動の前提条件が大きく変化した今、国の温暖化対策戦略についても5年後の改訂時期を待たずに、強化されることを期待したいと思います。

リンク

地球温暖化対策推進本部 日本のNDC(国が決定する貢献)
http://www.env.go.jp/press/files/jp/113664.pdf