地球環境問題と感染症
~コロナ禍を機に、地球環境問題を考える~

新型コロナウイルスはコウモリから拡がった

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で深刻な影響が生じています。世界中の人々が同時にこれほど広範囲で大きな影響を受ける事態は、第二次世界大戦以来なのではないでしょうか。
その原因となっている新型コロナウイルスは、中国の武漢市付近が発生源と言われています。世界保健機関(WHO)と中国の専門家チームは、2月に報告書を発行し、新型コロナウイルスは動物が起源であると断定しました。新型コロナウイルスは、野生のコウモリ由来のウイルスが漢方や食材として利用されるセンザンコウなどの動物を介して人間に感染したと考えられています。

人間が発症する感染症の6割以上が、人間と動物が共に感染する人獣共通感染症と言われており、毎年、世界で約10億人が発症し、数百万人が死亡すると言われています。人獣共通感染症では、野生生物を自然宿主として共存していたウイルスが、他の野生動物や昆虫、家畜などを経由し間接的に、あるいは直接的に人間に感染が広がっていきます。

新型コロナウイルス以外にも、コウモリを宿主として人間に感染するウイルスは多く存在しています。
2002年11月から2003年7月にかけて東アジアを中心に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)は、新型コロナウイルス(COVID-19)と同じコロナウイルスの一種SARSコロナウイルス(SARS-CoV)によって引き起こされる感染症ですが、コウモリから直接あるいは中国の市場で販売されていた食用コウモリをはじめとした食用動物を介して人間に広まったとされています。

1970年代以降現在に至るまで、アフリカにおいて度々流行が起きている致死性が非常に高いエボラ出血熱は、コウモリを自然宿主とするエボラウイルスがゴリラなどを介して人間に感染して発症すると考えられています。
1998年から1999年にかけて発生したマレーシアのニパウイルス感染症は、動物種を超えて感染する全く新しい感染症で、重篤な脳炎により100名以上が死亡し、感染源となる豚が90万頭以上殺処分されました。このニパウイルスは、フルーツコウモリの体内に宿しているウイルスが、森林を切り開いて作られた大規模な養豚場の豚に感染し、豚を通して人間に感染したと言われています。

 このようにコウモリを原因とした感染症は多く存在しますが、なぜコウモリを原因とする感染症がこれほどまでに多いのでしょうか。

コウモリは非常に種類が多く、哺乳類の約2割がコウモリの仲間とされています。900種を超えるコウモリの種類がいると言われており、地球上の広い範囲に棲息しています。コウモリは多くの哺乳類が持つ遺伝的特質の原型を持っており、コウモリが体内に持つウイルスが変異することにより他の哺乳類へ感染しやすくなると言われています。また、多くのコウモリは集団で密集して棲息する性質を持っており、ウイルス感染のパンデミックを起こしやすいことも原因の一つとなっています。さらに、空を飛ぶ唯一の哺乳類であるコウモリは、かなりの長距離を移動する種も多く、ウイルスを広い範囲に感染させる力を持っています。

「獣医学ジャーナル」によりますと、過去80年間に出現した感染症の7割以上がコウモリなど野生動物に由来するとのことです。また、米国際開発庁(USAID)の「PREDICTプロジェクト」によりますと、アジアやアフリカの野生動物には、1000種類の未知のウイルスが存在するそうです。このように、野生生物と感染症は非常に深い関係性があります。

森林破壊と感染症

野生生物と感染症が密接に関わっていることを説明しましたが、新型コロナウイルスをはじめ、近年数多く発生している感染症の世界的流行の背景には何があるのでしょうか。

感染症、公衆衛生学、生物学の研究者からは、大規模な森林伐採などの地球規模の自然破壊が感染症拡大の大きな原因であると指摘されています。

近代は、人間の経済活動は急速に拡大し、森林を伐採し大規模な開発を進めてきました。本来、野生生物は熱帯雨林など深い森の奥などに住むものですが、自然破壊により食べる物が不足したり生息地を失ったりすると、新たな住処や餌を求めて人間の生活圏に近づいてきます。また、希少な動物を漢方利用などの目的として捕獲するために、人間側から野生生物に近づくことも多くあります。このように人間と野生生物の接触する機会が増えると、野生生物が持つウイルスが人間に接触し、感染症が生まれる原因となっています。

ウイルスは、コウモリなどの野生生物を自然宿主として、その生物と共生しています。ウイルス自体は頻繁に変異を繰り返し、宿主を変えながら活動するエリアを拡大し、家畜や人間に感染するタイプに変化することが多いと言われています。

先に紹介したアフリカのエボラ出血熱もマレーシアのニパウイルスも人間活動の拡大により、自然と人間の距離が近くなってしまったために野生生物から人間にウイルスが感染して、人間に感染症が発生しました。このようなことが20世紀以降、頻繁に発生し大きな被害をもたらしています。自然破壊の結果として、人間と野生生物の境界線が不明瞭になったことが未知のウイルスへの感染可能性を高めています。

気候変動が感染症拡大を加速

気候変動と感染症にも深い関係があります。近年は、気候変動の影響による干ばつ、森林火災、洪水などの異常気象が世界各地で頻繁に起きています。これらの異常気象により、一部の野生生物が生息地を失い、人間や家畜の生活するエリアに出没するようになることで、人間は野生生物の持つウイルスに接触する頻度が高まっています。

また、マラリヤ、デング熱、ジカ熱は熱帯地域の感染症でしたが、地球温暖化の影響でウイルスを媒介する蚊の生息域が温帯域まで拡大し、感染症の発生地域も拡大しています。今後、温暖化が進むとこれらの感染症もさらに拡大すると予想されています。

気温が上昇すると、ウイルスは人間の体温に適応しやすくなり、病原体に対する人体の発熱を制御するシステムが効かなくなると指摘する研究者もいます。

さらに、気候変動による気温上昇によりシベリアなどの永久凍土が解けることにより、未知のウイルスに遭遇する危険性も指摘されています。2015年には、シベリアで永久凍土が解けた3万年前の地層から極めて繁殖力の高い未知のウイルスが発見されました。自然界にはこのような未知のウイルスが無数に存在していると言われています。研究者は、その無数のウイルスが気候変動等によって人間と接触する機会が増加してしまうことを懸念しています。

自然と人間との関わり方を見直す必要性

今まで説明したように、地球環境問題は感染症の拡大に密接な関係があります。新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界はかつてないほど深刻な影響を受けています。医療崩壊を防ぐために、世界中の人々が強制的に行動変容を求められています。深刻な感染症が頻繁に発生する大きな原因が、森林破壊や気候変動などの地球環境問題であるならば、これらの問題に対しての人間や企業の行動変容もまた必要不可欠と言えると思います。

今回の新型コロナの感染拡大により、世界中で経済活動を止めざるを得なくなり、多くの企業や国の財政が厳しくなっています。それを理由に、進みかけていた気候変動対策が後退することを国連事務総長はじめ多くの有識者が懸念しています。しかし、気候変動をはじめとする地球環境問題が感染症の発生原因であるならば、気候対策の遅れは、さらに深刻な感染症の発生を招きかねません。

感染症という「パンドラの箱」が開いてしまった以上、今までと同じ前提は通用しない時代に突入したと考えるべきでしょう。人間が自然を力でねじ伏せるというのはもはや通用せず、自然と人間が共存する道を本気で考える必要があります。「経済が大事か、環境が大事か?」といった二者択一的な議論はもはや通用しなくなりつつあります。生存するためには、自然と人間の共存が必要不可欠になるのではないでしょうか。健全な地球環境なくして豊かな生活をすることはもはや不可能であることを世界は認識する必要があります。

近年では、温室効果ガスの排出を将来的にゼロにすることを宣言する企業が増加したり、SDGsを経営の中核主題に掲げる企業も増加しています。また、投資先企業のサステナビリティに着目したESG投資が存在感を高めています。今後その流れは更に加速するでしょう。企業もそうした流れを理解して経営をする必要がありそうです。

近年は、今まで経験したことがないような大規模な異常気象や感染症が頻繁に発生しており、人類の生存を脅かしています。それらは今後、さらに脅威を増すと予測されています。私たち人類は、自然からの警告を真摯に受け止める必要があるでしょう。「人類が生き残れるかどうかは、パラダイムシフトができるかどうかにかかっている。」と言っても過言ではないかもしれません。