新型コロナウイルスによる世界的な感染拡大を受けて、3月以降、世界各地で経済活動がストップしました。欧米では多くの都市でロックダウンが実施され、経済活動だけでなく、個人の外出制限など、大幅な行動制限が実施されました。

この度、英国の科学雑誌「Nature Climate Change」に発表された論文によると、新型コロナウイルスのパンデミックにより世界各地でロックダウンなどが行われた結果、4月上旬までの世界全体の二酸化炭素排出量が、昨年と比較して1日当たり最大で17%減少したそうです。これは、2006年のレベルの排出量に相当するとのことです。1月から4月までの4カ月で、化石燃料の燃焼とセメント生産から排出された世界の二酸化炭素の排出は8.6%削減されたと推定しています。

新型コロナウイルスの世界的感染拡大の前には、毎年1%ずつ排出量が増えており、今年も排出量が増加することが予想されていました。しかし、今回のパンデミックにより今年の排出量は世界全体で7.5%(2,729Mt-CO2)減少すると予測されています。これは、第二次世界大戦以来最大の二酸化炭素の排出削減になり、国際エネルギー機関(IEA)の予想(前年比約8%減)にも整合しています。

この論文の調査では、69か国の二酸化炭素排出量をリアルタイムで推計し、定量化しています。6つのセクターの活動データと、各国または地域における長期的な封鎖措置の「拘束指数」を組み合わせており、2019年と比較した、2020年1月から4月までの1日あたりの世界の二酸化炭素排出量の変化を推定しています。4月上旬のロックダウンのピーク時には、調査対象の国の二酸化炭素排出量が平均で26%減少したそうです。世界全体でみると、4月7日の時点で17%の減少に相当するそうです。

セクター別でみると、最も排出量が減少したのが、航空セクターで、約75%減少しています。また、陸上輸送セクターも大幅に減少しており、約50%減少しています。つづいて産業セクターが約35%、建物・商業が約33%減少しています。二酸化炭素排出量の削減へ寄与した割合では、陸上輸送43%、産業と発電43%、航空10%とのことです。

今年1月~4月の前年比二酸化炭素排出量の減少幅を国・地域別に見てみると、世界全体では-8.5%、中国が-8.8%、米国が-7.9%、欧州が-12.5%、インドが-7.2%、日本が-4.0%となっています。

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都市封鎖等の対策を行っていた際の1日あたりの最大減少幅を見てみると、中国で-23.9%、アメリカ-31.6%、インド-25.7%、ロシア-23.2%、日本-26.3、ドイツ-26.4%、韓国-14.7%となっています。

この論文では3つのシナリオで世界の二酸化炭素排出量の予測を行っています。

1つ目のシナリオは、6月中旬までに都市封鎖が解除され、人の移動や経済活動が新型コロナの感染拡大前の状態に回復したケースです。このシナリオでは、今年の二酸化炭素排出量の削減は前年比-4%に留まります。

2つ目のシナリオは、ある程度の移動制限が今年いっぱい続くケースです。このシナリオでは、今年の二酸化炭素排出量の削減は前年比-7%となります。

3つ目のシナリオは、7月後半に感染拡大前の状態に戻ったケースです。このシナリオでは、前年比-5%の二酸化炭素排出量になります。不確実性を加味すると、世界全体で2~13%の二酸化炭素の削減になると予測されています。

今回のパンデミックにより、世界経済は1930年代の世界大恐慌以来の経済的影響を受けています。世界の実質GDPは5.5%減少する(米国7.3%減、欧州8.6%減、日本5.5%減)と予測されており、主要国の経済活動がコロナ前のレベルに戻るのは、早くて2022年前半になるとも言われています。新型コロナウイルスは、私たちの生活に前例がないほどの影響を与えていますが、経済的な影響と比較すると、二酸化炭素排出に与える影響は限定的と言えます。

なぜなら、パリ協定の2℃目標を達成するためには、2030年までに温室効果ガスの排出量を毎年2.7%ずつ減少させる必要があるからです。1.5℃を達成するためにはさらに厳しく、毎年、温室効果ガスを7.6%ずつ削減する必要があります。日本においては、2030年に二酸化炭素排出量を2013年非で26%減の目標を掲げています。新型コロナウイルスの影響で世界各地の経済がストップしても二酸化炭素の排出は、前年比2~13%の削減に留まる予想ですので、パリ協定の目標達成への道のりは、かなり厳しく遠いことがお分かりいただけるのではないかと思います。

過去にも、世界的な不況により二酸化炭素の排出量が減少したことがありました。例えば2008年の後半に起きた世界金融危機(リーマンショック)では、2019年の世界全体の二酸化炭素排出量は前年比で1.4%減少したものの、2010年には前年比で5.1%増加するリバウンドがありました。アフターコロナにおいても同様のリバウンドが起きてしまうリスクがあります。

では、パンデミックが収束した後に、経済や私たちの生活は、今までの経済危機の後と同様にコロナ以前のものに戻るのでしょうか。個人的には、新型コロナが発生する以前よりも、よりサステナブルで気候フレンドリーな社会になって欲しいと考えています。今回のコロナ禍の経験を活かして、脱炭素社会を目指して欲しいと考えています。

中世ヨーロッパで発生し、人口の1/3もの人命を奪ったペスト(黒死病)は、結果としてヨーロッパの中世社会を根底から覆しました。封建社会が崩れ、新しい機会や創造性を生み、そこからルネサンスの芸術や文化の概念が開花し、近代ヨーロッパが始まりました。また、ニュートンが微積分法や万有引力の理論を発見したのも、ペストにより街全体が閉鎖されていた時期のようです。過去に発生した多くのパンデミックは、その代償として新しい価値を生んできたのも歴史が証明しています。

今回のコロナ禍は、近代社会が目指してきた、大量のエネルギーを投入し、極度に密集された都市への一極集中とグローバル化の是非について一石を投じているように感じられます。今までなかなか進まなかった在宅勤務やテレワークも、今回のコロナを機に一気に進みました。多くの人が、仕事や生活のやり方や価値観を考え直す経験を積むことができました。アフターコロナの経済・社会は、より持続的で新たな価値を生み出すものになることを願わずにはいられません。