アカデミー賞を主催する映画芸術アカデミーは、9月8日、アカデミー賞作品賞において「多様性」を求める新たな選考基準を公表しました。作品賞にノミネートされるためには、映画の製作者は、女性、人種・民族的マイノリティ、性的マイノリティ、障がい者などの「少数派」を積極的に映画の製作現場で起用することが求められるようになります。

主催者が「representation」と「inclusion」の基準と呼ぶこの基準には、4つの項目があり、審査対象になるには2項目以上で「少数派」の人材(俳優、制作スタッフ)を起用したり、多様性を反映する必要があります。4つの項目は、「映像に現れるもの(俳優、テーマ、ストーリー)」、「クリエイティブ(制作スタッフ)」、「雇用(有給インターンや研修生)」、「マーケティング、宣伝、配給スタッフ」となっており、これらの項目で少数派を積極的に起用し、多様性を反映した映画製作を求めています。具体的には、映画の主演俳優または助演俳優のうち、少なくとも1人はアジア系、ヒスパニック系、黒人などであること、それ以外の出演者のうち少なくとも30%は、女性や性的少数者、障害者などで構成されること、映画のテーマが、こうした人たちに焦点を当てていることなどの条件が定められており、少なくとも1つを満たさなければならないとされています。この基準は2024年の第96回以降のアカデミー賞作品賞に適用されますが、2022年の第94回アカデミー賞の選考から、製作者はこの基準への対応状況に関するチェックリストの提出が求められるようになります。

映画芸術アカデミーは、「多様性が公平に表現されることを目的として設置したこの基準によって、今まで以上に多様な人材が映画製作に参加し、スクリーンでも制作現場でも少数派の存在や価値観が取り入れられ、表現されるようになることを期待している。」とコメントしています。

アメリカの映画界に対しては、以前から白人や男性を偏重しているという批判がありました。また、アカデミー賞についても、有色人種の監督や俳優による作品のノミネートや受賞が少ないと批判されてきました。2016年のアカデミー賞では、主演賞、助演賞にノミネートされた20名全員が白人であり、有色人種が1人もいなかったことが強く非難されました。授賞式のボイコットが起こったほか、”#OscarsSoWhite”(オスカー[アカデミー賞]は白人ばかり)というハッシュタグがSNSで拡散されました。これを受けて映画芸術アカデミーは、2017年に女性や有色人種を中心に約700人を新しく会員にするなど、投票権をもつ会員の多様化を図ってきました。2020年6月には新たに819人が会員となりましたが、その45%が女性、36%が白人以外の人種が占めています。非白人の会員数は、是正の取り組みを始めた2016年と比較して2倍以上に増えています。そうした中、2020年のアカデミー賞では、ポン・ジュノ監督の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が外国語作品による史上初の作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編賞の4冠を受賞する快挙を遂げ、アカデミー賞に新たな時代がやってきたことが予見されました。

この新基準は、英国映画協会が採用している基準を参考に、全米製作者組合と相談しながら作られたそうです。映画芸術科学アカデミーの代表は、「映画製作には社会の多様性が反映されるべきで、この新基準は映画界における長期的かつ本質的な変化のための触媒になると信じている。」との声明を出しています。今年は、ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさんが無抵抗なまま警察官に殺害された事件を受けて、世界的な抗議行動「Black Lives Matter」が行われ、多様性の問題が改めて注目された年となっています。このような状況でアカデミー賞のような影響力の大きな世界的な賞で、多様性に関する基準が設けられたことは注目すべき事象で、今後、様々な分野で同様の取り組みが波及することが考えられます。日本のビジネス界においては、多様性の必要性が認識されつつあるものの、国際的な基準でみると、かなり多様性が乏しいことが指摘されています。多様性の重要性はますます高くなることが予想されており、国際的な動向を踏まえつつ、自社の方向性と戦略を検討していくことが必要となるでしょう。