気候変動対策が主要論点の一つに

世界が注目する米国の大統領選挙まで、残り1か月を切りました。今回の大統領選挙の最大の論点は新型コロナ対策とそれに伴う経済対策・雇用対策ですが、人種差別問題、移民問題、社会保障問題、教育問題、環境問題など多くのESGに関連するテーマも主要な論点になっています。その中でも気候変動対策は、大きな論点になっており、若者を中心に関心を集めています。日本においては、国政選挙で気候変動が主要な論点になることは決してありませんが、グローバル、特に欧米においては気候変動対策が選挙の主要な論点になることが近年増加しています。これは、気候変動が目に見える形で日常生活に大きな影響を与えており、有権者の意識も高まってきていることなどが背景にあります。本ESG Topicsでは、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン候補の気候変動に関する政策を比較して紹介します。

世界の気候変動対策に影響を与える

今回の大統領選挙の結果は、米国のみならず、世界の気候変動対策にも大きな影響を与えます。昨年11月4日にトランプ大統領は、パリ協定を離脱することを正式に国連に通知しました。パリ協定の規則では、通知の1年後に正式に離脱となるため、大統領選翌日の2020年11月4日に米国はパリ協定を正式に離脱する予定になっています。民主党のバイデン候補は、パリ協定への復帰を公約としているため、バイデン候補が当選した場合は、世界第2位の温室効果ガス排出国である米国がパリ協定に留まることになり、世界の気候変動対策の実効性が大きく前進することになります。反対にトランプ大統領が再選した場合は、世界の気候変動対策が大きく後退することになります。そのため、今回の大統領選挙は、気候変動に関心を持つ世界中の人々の関心を集めています。

トランプ大統領の気候変動政策

トランプ大統領は、気候変動に対してはかなり懐疑的で、パリ協定からの離脱を表明しています。大統領に就任した直後から、毎年のように環境関連の研究予算を大幅に削減し、オバマ前大統領政権時代に実施してきた発電所からの温室効果ガス排出削減政策などの気候変動対策を大幅に見直し、規制を緩和してきました。さらに、原油パイプラインの建設計画を推進するなど、環境保護よりも産業の活性化や雇用の創出を重視する姿勢を鮮明にしています。トランプ大統領がこのような政策をとるのは、トランプ大統領の主要な支持層が石炭産業や重工業などエネルギーを大量に消費する層であることが背景にあると言われています。特に、温暖化の最も大きな原因として世界中で非難されている石炭の利用を推進し、民主党の反石炭政策から石炭労働者等を守ると宣言しています。トランプ大統領は、地球温暖化が人為的な原因で起きているということに懐疑的であり、将来の環境よりも自国の現在の経済が最優先であるという姿勢が根底にあります。

バイデン候補を極左とみなし、その打ち出している環境重視、気候変動対策重視の政策は、米国の経済成長とイノベーションを阻害し、エネルギー産業を衰退させ製造業のコストを引き上げ、中国を大いに利するものとして激しく攻撃しています。

バイデン候補の気候変動政策

2020年8月に民主党の大統領候補として正式に指名されたバイデン候補は、その指名受託演説で、現在米国が直面する四つの歴史的な危機の一つとして気候変動を挙げ、気候変動対策に真剣に通り組む姿勢を見せました。バイデン候補は、一連の選挙キャンペーンで気候変動を最重要政策の一つとして掲げ、政策の詳細と計画を公表しています。その中で、気候変動は、環境、健康、コミュニティ、経済および国家の安全性に現実の脅威をもたらしており、米国及び世界が対処すべき最大の挑戦と位置付けています。その脅威への対象に必要不可欠な枠組みとしてグリーンニューディールを位置付け、米国は緊急に対策を行う必要があるとしています。また、環境と経済は、全面的に連動したものと位置づけ、両立するための取り組みを推進しようとしています。トランプ大統領は、石炭やシェールガスなどのエネルギーの開発と利用により経済、雇用を再生しようとしているのに対して、バイデン候補は、気候変動は米国が直面する最大の課題であるものの、むしろ積極的な対策を行うことにより経済と雇用を再生している点で両者の政策は正反対と言えるでしょう。

野心的なバイデン候補および民主党の気候変動政策

気候変動に関するバイデン候補の政策と、民主党の政策綱領は整合しており、今までのどの大統領候補よりも野心的かつ具体的な気候変動対策が掲げられています。主な内容は以下の通りです。

  • 2050年までにクリーンエネルギー100%社会の実現とネットゼロエミッションを実現する。
  • 2035年までに電力の脱炭素化を実現する。
  • パリ協定に再びコミットし、1.5 度目標の達成に向けて必要な努力を行うとともに、すべての主要国が国内目標を引き上げる努力を率先する。
  • 世界気候サミットを開催し、主要排出国の首脳に直接行動を働きかけ、より野心的な削減目標を約束させる。
  • 石油ガス事業における排出規制、自動車の燃費規制、連邦政府によるクリーン自動車の調達に関する大統領令に署名する。
  • 就任初年度に、クリーンエネルギーと気候研究イノベーションに対する巨額投資やクリーンエネルギー普及のためのインセンティブ付与などの気候変動に関する法律の制定を議会に対して求める。
  • 気候変動影響に耐えうるクリーンで強靭なインフラに対して画期的な投資を行う。
  • パリ協定の約束を履行していない国からの炭素集約製品の輸入に対して、炭素国境調整賦課金を課する。
  • 中国による石炭輸出補助や炭素汚染の海外移転をやめさせる。

最高裁判事の人事と気候変動政策

大統領選挙とは直接関係ありませんが、2020年9月18日にルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判所判事が亡くなりました。ギンズバーグ判事は、女性や少数派の権利を強力に擁護したリベラル派の女性判事です。米国の最高裁の判事は最高裁長官を含めた9人構成で、その任期は終身となっています。判事の任期が終身のため、最高裁判事の構成は個々の大統領の任期を超えて、長く米国社会に影響を及ぼすことになります。ギンズバーグ判事の死去により現在は判事8名となっており、共和党大統領が指名した保守派が5名、民主党大統領が指名したリベラル派が3名となっています。最高裁判事は大統領が指名し、それを上院が承認することで決定します。トランプ大統領はギンズバーグ判事の死去から1週間後に48歳で保守派のエイミー・コーニー・バレット氏を指名しました。大統領選の前に共和党が多数を占める上院が、バレット氏の人事を承認するかが注目されています。バレット氏が最高裁の判事に承認された場合、最高裁判事の構成は、保守6名、リベラル3名となり、最高裁の判決が圧倒的に保守寄りになる可能性があります。そのうち3名はトランプ大統領が指名した保守系の判事になります。3名とも53歳、55歳、48歳と若いため、今後20年から30年程度は保守系の影響力が強まることが予想されています。

アメリカの最高裁判所は、連邦政府と州政府との関係や、政府の政策に関する重要な法的判断を下します。バイデン候補が大統領選挙に勝利したとしても、論争を引き起こすような気候変動対策は告訴され、最終的に最高裁で否決されてしまう可能性があります。つまり、野心的な気候変動政策の実行に最高裁が障害になる可能性があります。それに対して、民主党はバイデン氏が勝利し、上院も民主党が多数を占めた場合は、最高裁判事の定員を増員することで対抗することを検討しているようです。

米国大統領選は、日本および世界の気候変動対策に影響を及ぼす

今まで見てきたように、トランプ大統領とバイデン候補は、気候変動対策に関して正反対の立場をとっており、どちらが当選するかによって米国の気候変動政策は大きく変わってきます。世界第2位の温室効果ガス排出国である米国が気候変動に対してどのような政策をとるかは、世界の気候変動対策に大きな影響を与えます。バイデン候補および民主党の気候変動政策は世界の中でもかなり積極的で野心的なものとなっており、バイデン候補が当選した場合は、世界の気候変動政策にとって大きな転換点になると考えられます。特に米国の影響を受けやすい日本は、大きな政策転換が迫られる可能性があります。

現在、日本は気候変動対策について、先進国の中では米国についで後ろ向きなの国と批判されています。先進国で最も気候変動対策に後ろ向きの米国が、積極派に転向した場合、日本が先進国で最も気候変動対策に後ろ向きな国になってしまい、国際的な風当たりは強くなるでしょう。今後の動向を占ううえでも米国の大統領選挙には注目したいと思います。