77か国が2050年までにGHG排出ゼロを宣言

2019年9月23日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長の呼びかけにより、ニューヨークの国連本部で国連気候行動サミットが開催されました。気候行動サミットは、世界各地で集中豪雨、巨大台風、異常熱波などの異常気象や自然災害が発生し、甚大な被害が出ていることを踏まえ、来年から始まる「パリ協定」を前に、温室効果ガスの大幅削減するための具体的な行動の強化を図ることが目的です。

グテーレス事務総長は、「私たちの世代は、地球を守ることに失敗した」と強い危機感を表明し、「今後の10年間で温室効果ガスの排出を45%削減し、2050年までに実質ゼロにするために、2020年までに対策を強化するための具体的、現実的計画を持って」参加することを、各国のリーダーに呼びかけました。各国のリーダーは、「どのようにして2020年までにGHG排出量の増加を止め、今世紀半ばまでに正味ゼロ排出を達成するためにGHGを劇的削減するつもりなのか」という問いに対する具体的な回答を用意して参加することが求められていました。

国連は、2009年と2014年にも「気候変動サミット」を開催しています。しかし、2019年の今回は、「気候行動サミット」となっています。気候変動を議論しているフェーズはもう終わって、具体的な「行動」のフェーズに入っているという国連の意思表明であるでしょう。海外では「気候変動」から「気候危機」へと人々の認識が変わってきています。次々と顕在化している「危機」に対して、具体的な「行動」が求められている時代になったと言えるでしょう。

気候行動サミットの開催に合わせて、世界中の約150カ国で気候危機の解決を訴える抗議デモ「グローバル気候マーチ」が行われ、約400万人もの子どもたちや若者を中心とする市民が気候危機の解決を求め行進しました。こういった要請に応えて、気候変動影響に脆弱な小規模国を中心に、合計66か国が2020年までに自国の削減貢献目標(NDCs)や行動を強化する意思を表明していました。

気候行動サミットには、ドイツ、イギリス、フランス、インドなどの首脳や各国の閣僚が参加し、具体的な目標や対策を表明したほか、企業やNGOも議論に加わりました。16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんは、「未来の世代の目があなたたちに向けられている。私たちを裏切るなら決して許さない。」と各国の首脳たちに訴え、緊急の行動を求めました。また、65カ国およびカリフォルニアなど自治体レベルの主要な経済圏(合計77カ国・地域)が、2050年までにGHGの排出を実質ゼロとする長期目標を表明しました。長期目標とは別に、自国のGHG削減目標を20年までに引き上げると表明した国も70カ国に上りました。

多くの国と世界最大級の都市を多く含む100を超える都市は、気候危機と闘うための新しい重要かつ具体的な措置を発表しました。また、100を超える企業が、パリ協定の目標と整合し、グリーン経済への移行を加速するための具体的な行動を起こしています。その中には、2兆ドルを超える資産を保有する資産家や、時価総額が計2兆ドルを超える有力企業が含まれています。

 主要各国が大統領や首相が参加し、GHG削減目標の引き上げや具体的な対策を宣言する中、日本は安倍総理が出席せず、環境相に就任したばかりの小泉進次郎大臣が開会式に出席しましたが、残念ながら、今回のサミットでも日本の存在感は感じられませんでした。日本は、気候目標や対策の強化をする宣言はなく、「緑の気候基金(GCF)」の増資表明もなく、グテーレス事務総長が繰り返し求めていた脱石炭への決断も回避しました。国として具体的に公表できるものが何もない中で参加した小泉大臣は、実質的な中身のない「リーダーシップ」との言葉を繰り返し、「楽しく、かっこよく、セクシーに」といった具体性のない発言しかできませんでした。

気候行動サミットで発表された主な内容

今回の気候行動サミットで発表された主な内容を紹介します。

国の取り組み

  • フランスは、パリ協定に反する政策を採用する国と一切、貿易協定を締結しないことを発表。
  • ドイツは、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると約束。
  • ノルウェー、ドイツ、フランス、英国は、開発途上国が気候変動に対処するための適応と緩和の実践を支援する金融メカニズム「緑の気候基金」への拠出金を、現在から倍増することを公表。また、新たに12カ国が、資金拠出を確約。
  • 英国は、2020年から2025年にかけての国際気候ファイナンス拠出総額を116億ポンドへと倍増。
  • フランスやニュージーランドなどは、その領土と領海内での石油やガスの探査を許可しないことを発表。
  • フィンランド、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、オランダ、ポルトガル、スロバキアの各国首脳は、石炭の段階的使用禁止に取り組むことを発表。韓国は、石炭火力発電所4カ所を閉鎖し、2022年までにさらに6カ所を閉鎖すると発表。

民間の取り組み

  • 資産運用額で計2兆ドルを超える世界最大の資産家グループは、2050年までにカーボンニュートラルな投資ポートフォリオへ移行することを約束。
  • 時価総額で計2.3兆米ドルを超える大企業87社は、排出量を削減するとともに、科学者が提言している気候変動の最悪の影響を抑えるために必要としている地球温暖化1.5°Cの未来にビジネスを整合させることを約束。
  • 全世界の銀行部門の3分の1にあたる130行は、パリ協定の目標にビジネスを整合させることに同意。
  • マイケル・ブルームバーグは、石炭の段階的使用禁止に向けた取り組みの資金拠出と地理的対象範囲を30カ国に拡大する予定。同氏の活動の影響もあり、米国内に530カ所あった石炭火力発電所のうち、すでに297カ所が閉鎖済。
  • エネルギー効率の改善と、増大の一途をたどる冷却用エネルギーのニーズ削減に向け、全世界で毎年3%のエネルギー効率改善の推進に努める「3%クラブ」連合が発足。
  • 2050年までに正味ゼロカーボンの世界の実現を目指し、参加メンバーについて温暖化を1%に抑えられる可能性を持つ野心的な国別冷却化目標を定めるイニシアティブ「クール・コアリション」が発足。

気候行動サミットで行われたすべての発表と約束は、以下のHPでご覧いただけます。

https://www.un.org/en/climatechange/