スペインのマドリードで12月2日(月)から15日(日)にかけて開催されました、国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が閉幕しました。COP25開催の翌年の2020年は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比較して2度未満(できれば1.5度未満)に抑える長期目標を持つ「パリ協定」が本格的に開始される年です。「パリ協定」の本格開始前最後の国際交渉の場ということで、例年以上に注目された会議となりました。本Topicsでは、COP25の結果の概要をご紹介します。

注目を集めたCOP25

2019年は、世界各地で異常気象が観測され、気候変動に対する人々の意識が高まった年です。大規模な気候災害が多発する中で、もはや気候変動ではなく「気候危機」であると海外では言われることも多くなりました。9月に開催された「国連気候行動サミット」でスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんのスピーチが注目を集め、彼女が参加したCOP25も大きな注目を集めていました。また、グレタさんが始めたフライデー・フォー・フューチャー(気候のための学校ストライキ)やグローバル気候マーチが世界各国に広がり、気候変動に対する市民、特に若者の関心が高くなった点も、COP25に注目が集まった理由の一つです。

COP25の位置づけとポイント

COP25は、2020年から本格的に開始されるパリ協定の前に開催される最後の国際交渉の場ということで、具体的な最終準備の場と位置付けられていました。
2018年に開催されたCOP24では、パリ協定のルールブック(実施規則)が一部を除き採択されました。COP25では、COP24で決定できなかった一部のルール(市場メカニズム、共通の時間軸など)を決定すること、各国の削減目標を引き上げる機運を醸成することが重要なポイントとされていました。

「市場メカニズム」に関する交渉結果

COP25で最も注目を集めていたのが、「市場メカニズム/非市場メカニズム」と呼ばれる論点(パリ協定6条:協力的アプローチ)でした。市場メカニズムとは、2カ国以上の国が協力して温室効果ガス排出量の削減を行ない、その削減分を国際的に移転・取引する仕組みのことです。うまく制度設計がされなかった場合、各国の削減目標と対策に抜け穴が生じることになり、気候変動に対する各国の目標と対策が不十分なものになってしまいます。

COP24で決定される予定でしたが、各国の利害調整が解決できず積み残され、COP25で改めて議論することになっていました。COP25で長時間議論されたのですが、COP25でも参加国の意見を調整することができず、翌年のCOP26に再度、先送りされました。市場メカニズムのルールを決定できなかったことについては失望する意見がある一方、妥協して抜け穴のあるルールを作成して長期間そのルールが固定化されるよりは、きちんと実効性のあるルールを整えた方がよいとする意見もあります。

市場メカニズムは、京都議定書の枠組みの下で作られた仕組みですが、京都議定書ではGHGの削減目標が厳しくなく、多くの国が容易に削減目標を達成できたため、多くのGHG削減クレジット(排出権、排出枠)が未使用のまま残っています。COP25では、その未使用のGHG削減クレジットを、パリ協定の枠組みでも使えるようにするか議論されました。ブラジル、インド、中国などの新興国がパリ協定の下でも使えるようにすべきと主張しました。一方、パリ協定の下で使えるようになると、気候変動を抑制するためのGHG削減量が不十分になってしまうため、EUや小島しょ国連合など多くの国が反対しました。様々な妥協案が検討されたものの、こちらも折り合うことができず、COP26に先送りされることになりました。

「共通の時間軸」に関する交渉結果

市場メカニズムと並び重要な議題であったのが、「共通の時間軸」と呼ばれる問題です。パリ協定では、参加国が「2030年までにGHGを〇年と比較して〇%削減する」という国別の削減目標を掲げ、国際社会にGHG削減対策の実施を約束しています。「共通の時間軸」の問題というのは、2030年の次の目標が2035年までの目標になるのか、2040年までの目標になるのかという論点です。2030年の目標が、2035年(5年間)になるのか、2040年(10年間)になるのか、2035年と2040年(5年+5年)になるのかについて、各国の意見が対立しました。こちらについてもCOP25では決定することができず、2020年6月の補助機関会合に再び議論することになりました。

削減目標の引き上げ(野心の強化)の状況

COP25では、パリ協定の参加国が、その削減目標を引き上げる機運を高める(野心の強化)ことができるかが、重要な焦点となっていました。パリ協定は気温上昇を産業革命以前と比較して2度未満、できれば1.5度未満に抑えるという目標を立てていますが、参加国の削減目標をすべて合計しても、産業革命以前と比較して3度ほど上昇する目標にとどまっています。深刻化する気候危機を乗り越えるためには、2020年の2月に各国が目標を再提出する際に、その目標を引き上げることが重要となります。COP25でその機運を高めることができるかが大きく注目されていました。

この機運を大いに盛り上げたのが、ニュースなどで取り上げられることも多い、スウェーデンの16歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんの存在です。グレタさんが始めたフライデー・フォー・フューチャー(気候のための学校ストライキ)やグローバル気候マーチが世界各国に広がり、気候変動に対する市民、特に若者の関心が高くなり、COP25は近年まれにみる一般市民の注目を浴びました。COP25にはグレタさんをはじめ多くの若者が参加し、GHG削減目標の強化と取り組みの促進を訴えました。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、野心強化の機運を盛り上げるために、COP25開催前の2019年9月に「国連気候行動サミット」を開催しました。また、COP25の議長国であるチリが主導して気候野心連合(Climate Ambition Alliance)が作られました。この連合に参加する国のうち、EU各国をはじめ80か国以上が2020年までに国のGHG削減目標を強化して再提出すると宣言しています。

COP25の会期を2日延長した最終日に、「2020年に各国が、可能な限り最も高い野心を持って、現行の温室効果ガス削減目標を引き上げることを求める」という文言をCOPの成果文書に盛り込み閉幕しました。

関連リンク

日本政府代表団発表資料「国連気候変動枠組条約第 25 回締約国会議(COP25)(結果) 」
http://www.env.go.jp/press/files/jp/112952.pdf